答えを出す仕事は、もう人間のものではない
この十数年、私は経営者やリーダーと「内省」の場をともにしてきた。そこでいつも突き当たる問いがある。「あなたは何を大切にしているのか」。この問いに、即答できる人はほとんどいない。
長いあいだ、それでも問題はなかった。優秀さとは、与えられた問いに正しく答えることだったからだ。だが、AIが「答えを出す」役割を引き受けはじめたいま、自分の世界の基盤をどこに置くのか——この問いは、極めて重要になりつつある。
ここ数年で、私たちは奇妙な事実に気づきはじめた。調べること、まとめること、選択肢を並べること、正しい手順を示すこと。かつて「優秀さ」と呼ばれたものの多くを、AIは人間より速く、安く、正確にこなす。これは事実だ。そしてこの事実は、これから五年、十年とかけて、社会のあらゆる職場に静かに浸透していく。
すると、ひとつの問いが残る。
答えを出すことが人間の仕事でなくなったとき、
人間に残るのは何か。
この問いは、まだ多くの人にとって他人事だろう。けれど遠からず、誰もが自分の問題として抱えることになる。私たちは、その問いの入り口に立っている。
残るのは「問い」と「哲学」だ
結論から言う。AIに渡せないものは、二つしかない。
どの問いを立てるか
何を解くべきかを決める、価値判断。これは人間の領域に残っている。何に意味を感じるか——意味とは、主体と客体の関係性そのものだからだ。
自分自身の哲学
その判断を支えるもの。なぜそれを大事だと思うのか。何のために働き、どう在りたいのか。AIは答えを持てない。それは情報ではなく、その人がその人である理由だからだ。
「哲学」という言葉に身構える必要はない。難解な書物でも、歴代の哲学者が何を言ったかでもない。自分が何を大切にし、何を選ばないかを、自分の言葉で語れること。ただ、それだけを指している。
哲学を持つ訓練を受けてきていない
そして厄介なのは、ほとんどの人がこれを持っていない、ということだ。
私たちは長いあいだ、「答えを正しく出す」ことを訓練されてきた。学校でも、会社でも。与えられた問いに、用意された正解を、速く返す。その能力で評価されてきた。
自分の問いを立てる筋肉を、
誰も鍛えてこなかった。
自分の哲学を言葉にする訓練も、受けてこなかった。だから多くの人は、いざ「あなたは何を大切にしているのか」と問われると、借り物の言葉で答えるか、沈黙する。冒頭の、あの沈黙だ。
これは個人の怠慢ではない。時代がそれを求めてこなかった、というだけのことだ。けれど、時代は変わった。
組織は、もう人を動かせない
この変化は、組織のかたちにも現れている。
かつて組織は、命令と統制——Command & Control——で動いていた。上が決め、下が従う。明確な目標、明確な報酬、明確な罰。それで人は動いた。だが今、その方式は、あちこちで軋みはじめている。
人を動かす源泉が、外から内へ移っている。これは流行ではなく、仕事の質が変わったことの必然的な帰結だ。組織がこれから本当に必要とするのは、管理できる人材ではなく、自分の哲学を持って動く人なのだ。
では、哲学はどうやって持つのか
ここまでは、多くの人がうすうす感じていることかもしれない。問題は、その先にある。
「自分の哲学を持て」と言うのは易しい。だが、どうやって。哲学は、生まれつきの才能でも、偉人の言葉を暗記することでもない。それは、自分の内側を見る——内省の、型を学ぶことで育つ。
筋トレに型があるように、内省にも型がある。これらは、誰もが学べる技術だ。才能の問題ではない。
自分の感情の動きを観察する型
判断の前提を疑う型
問いを立て直す型
何に反応し、何を避けているかを見つめる型
私はこの十数年、経営者やリーダーとともに、その型を磨いてきた。内省を、個人の気質や偶然に任せず、学べるものとして体系化する。それを、WaLaの哲学と呼んでいる。
だが、いちばん簡単に言えば、こうだ。
内省の型を学ぶこと。
それが、自分の哲学を持つということ。
組織に、内省を置く
ここまで、個人の話として読んできたかもしれない。けれど、これは組織の話でもある。
内発的動機が問われはじめた職場では、よく似た風景が見られる。制度や号令では、もう届かない領域がある、ということだ。
指示は実行される。だが、自ら問いを立てる人がいない。決められたことの外側で、誰も動かない。
施策は増えるのに、現場の熱は上がらない。動機が、いつまでも外付けのままだからだ。
「主体性を持て」と号令しても、号令である限り、主体性は育たない。この矛盾に、多くの組織が立ち止まっている。
WaLaがするのは、ここに内省の型を持ち込むことだ。一人ひとりが自分の哲学から動けるように、その共通言語と、語り合える場を組織のなかに育てる。制度で締めつけるのではなく、内発が育つ土壌を、リーダーとともに耕していく。
管理によって人を動かす時代から、一人ひとりが自分の哲学を持って動く組織へ。その移行を、内省の型という具体的な技術で支える。それが、組織にとってのWaLaだ。
組織での導入について
導入の進め方や、自社に合うかどうかのご相談を承っています。
無料オリエンテーションとあわせて、お気軽にお問い合わせください。
静かに置いておく
AI時代に、内発性が問われる——この認識は、これからゆっくりと、しかし確実に広がっていく。私は、その流れの先回りをして騒ぎ立てるつもりはない。
もし、あなたがいま「答えを出すこと」ではなく「自分にとって大事な問いを考えたい」と感じているなら。あるいは、あなたの組織が、命令ではない別の動かし方を探しているなら。WaLaの哲学は、まさにそのための思考の道具を揃えるものだ。扉の前から、覗いてみるといい。
WaLaの哲学とは何かは、公式サイトに置いてある。無料のオリエンテーションでは、その「型」の一端に、実際に触れられる。